【香川×高濱】教育現場には「逆境デザイン力」が必要である
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この中で、世界の舞台で戦う香川真司選手から見た日本の教育についていろいろと語っています。
前編、後編の二部制になっていますが、前編はこのようなトピックが出てきています。

気になる点はたくさんあるのですが、一番気になったのは「教育課題“やらされ”からの脱却」です。これは自分がいま取り組んでいることだから。
今回は「体育の授業で“やらされ”を脱却するヒント。」です。
目次
- 香川×高濱の両氏が語る「やらされ」とは
- ヒント① 人間が持つ「気持ちよさ」「快感」を引き出す
- ヒント② ラウンドワンのスポッチャ化
- ヒント③ チームスポーツでも“タイマン”から始める
- ヒント④ 自分で決める。自分でやる。
- ヒント⑤ デバイスで確認する
- まとめ
香川×高濱の両氏が語る「やらされ」とは
「親の枠で生きる」
ゾウのマネをしてください。そう言われた子供が「これでいい?」と聞く、それに対して「ゾウさんは鼻が長いから違う」と返す。この関係がマズい。
子どもは正解を出そうとする。どう評価されるかが気になる。こうして内側から沸き上がるモチベーションを奪われてしまう。
サッカーにおいて「規律を守る」ことは大事である。チームスポーツなので組織的に動けないと簡単にスキを突かれてやられてしまう。
しかし、互いの力が拮抗して膠着した場合。これを打開できるのはそこから逸脱するリスクをとれる。自分のイメージを実行できる実力が必要になる。
『「チームのために」という言葉は、カッコイイフレーズでもあるが、言い訳にもなりうる。』
と香川選手は言う。
規律も大事。自分の感性で動くことも大事。
まあどっちも大事だということなのだろうが、日本の教育はそのことをどれだけ理解できているだろうか?
規律が大事と言って、自分の計画通りに授業が進むことばかりに気をとられる教師
個性が大事と言って、なんでも自由にさせて終わりの教師
バランスが伴っていないことが多い気がする。すべてが「なんとなく」で取り扱われている。
そうならないために何が必要なのだろうか?
- 目標をハッキリさせること
- 集団のルールとマナーを明確にする
- 目標を達成するための手順を示す
- 目標を達成するための行為として、手順を逸脱することは良しとするが結果を出すこと
という具合になるだろう。親のやり方に反対したいなら、自分のやり方で結果出せというバランスにも似ている。
まあこれは体育教師がお得意の「規律」の作り方。
今回のテーマはまた別の話。どうすれば体育の授業で「やらされ」を脱却して、自分でイメージし、自分で動くことができるような授業を作れるか。自分なりにやっていることを紹介していきたい。
ヒント① 人間が持つ「気持ちよさ」「快感」を引き出す
スポーツには「勝つ負ける」というものがつきものだが、それがすべてではない。
- 打った時の快感
- スピード、タイミングがばっちり合ったときの跳躍の快感
- ボールが指にかかったときに残る感覚
- ドリブルで抜き去り、シュートが決まったときの感覚
などなど、人間の感覚として「気持ちいい」という場面がスポーツにはたくさんある。
これは見ていても得られるのが不思議なところで、それがスポーツ観戦となりスポーツビジネスを支えている。
しんどいことを経験することが目的になってないか?
やはり、体育をするならばたくさん「気持ちいい」という感覚を得て欲しい。自分はこう考えている。
しんどい先に何かある。
これも事実かもしれないが、気持ちいい感覚を積み重ねるなかで得られることも多いはずである。
苦労を良しとするのではなく、気持ちいいプレーを目標に回数を重ねるというのが授業のスタンスにしていきたいと考えている。
人間が持っている「欲望」「快感」を引き出すメニュー
中高生の欲望が丸出しになるゲームといえばなにか
- ドッチボール
- 鬼ごっこ
ドッチボールは残酷なゲームで、スポーツができる奴のマウントがうざいゲーム。という見方もある。
これはこれで正しい見方である。それと同時に、それだけ人の欲望をむき出しにしてしまうということなのかもしれない。
雨でグラウンドが使えず、急遽体育館に入ることになった場合は「ドッチボールやらせてください」という意見が多い。「ワンチャン、鬼ごっこは無理ですか」という声も根強い。
原始的だが、面白い。ここに授業のヒントが隠れている。
因数分解してみよう
ドッチボールは何で構成されているのか。因数分解してみる
- 思い切り投げる
- 当てる
- よける
- 捕る
- 復活する
- 全滅させる
というところか。ここで人間の感性を刺激するのは「思い切り投げる」「当てる」「よける」「捕る」であろう。
鬼ごっこはどうか。
- よける
- 捕まえる
恐ろしくシンプルである。でも、持久走は嫌だけど、鬼ごっこなら気付けば走っているのだから注目すべきことだし、そのような人間の力を利用することが必要だ。
これは現在、中3男子に行っているハンドボールの授業である。
とにかくジャンプシュートを打つ。「思い切り投げる」という欲求を満たす。
パスは投げる練習の中で身につくのではなく、「相手に取られないように」という条件をつくることで「かわす」「スキを突く」身についていく。そのために「手を上げさせると脇が開くからそこを狙え」「右に体を傾けると重心がそっちに行くので背中から回したパスが有効になる」という駆け引きを教える。それに反応して色んなプレーが生まれる。
ワーワーいい感じで進んでいる。
メニューにこだわるのではなくて、生徒の本能をうまく引き出すにはどうすればいいか。
そんな感じで授業を作ることを最近は意識している。
ヒント② ラウンドワンのスポッチャ化
ラウンドワンはすごい。凄すぎる。
正直、学校の屋上をスポッチャにしてほしいと本気で思っている。
スペースを区切り、そのスペースでの「ルールとマナー」を明確にして、あとはどこで何をするかは本人に任せるというスタイル。
疲れたら休む。気が向いたものを気が済むまで行う。
これをサッカーでやってみている
これを書いた段階では案でしかなかったが、実際やってみるとハッスル係数はいままでのサッカーの授業の中で一番高い。
自分でやることを選び、自分の蹴りたいように蹴る。アドバイスが欲しいときはアドバイスを受ける。というのがやはりいいようだ。
実際に自分は、そのゾーンごとのルールとマナーを説明するだけ。あとは「ドリブル苦手な人集合!!」って感じで説明したりヒントを与えるだけ。
これだけ前向きにやってくれると生徒指導が楽で助かります。
授業のスポッチャ化。今後も続けていきたいと思います。
ヒント③ チームスポーツでも“タイマン”から始める
バスケットボールや、サッカー、ハンドボールなど授業で扱う球技はチームスポーツばかりです。
しかし、サッカーは22人に対してボール一つ。バスケは10人に対してボール一つ。これは一人一人が楽しむにはコスパが悪すぎます。
なので、まずはタイマンから始めるように努めています。そういうゲームを作るといってもいいです。
バスケの授業では10ぐらいのグループを作って、ゴールはポートボール的な感じで人にします。そこに向けて攻撃し、守備を行う1on1。これは盛り上がるし、どんどん順番が回ってくるのでプレーする回数がとても多くなります。
- プレーする回数を増やす
- 勝負する回数を増やす
- 勝ち負けで成績はつけない
- 多くのグループでやってるので、誰も自分を見ていない
タイマンをまずメニューに加えることを考えるのは上記の理由にまとめることができます。
特に④は重要で視線を散らすことで、プレッシャーから解放されて「下手でもやってみよう」という気になるのではないかと思います。
ヒント④ 自分で決める。自分でやる。
これも現在実行中の案件です。
みんな大嫌い持久走。東京マラソン以降、ランナーは増えているのに、持久走のイメージは悪いまま。
校庭をぐるぐる回ってるだけ
これは精神的につらい。しかも、体操服もダサくてテンション上がりません。
それならば、
- 自分で決めたルート
- 自分の着たい服
- 自分の好きな時間
- 最新のガジェットを利用
という条件を満たした持久走を行おうと考えました。一度乗り方を覚えたら忘れることない自転車とは違い、体育の授業で頑張っても完結しない持久力。生活の一部として運動をする習慣を身につけてもらわないと体力は減り、お腹が出てきて、関節が固くなる。
だからこそ、若いうちに「生活の中で“動く時間”をつくる」ことを経験させたほうが将来に生かせるのではないか。と思っています。
- 説明会を生徒に行い
- 親に承諾をもらい
- 自作ルートを提出し
- デバイスのデータを提出する
面倒くさいと思うかもしれませんが、伝え方や、授業での配慮などを駆使して進めました。
半数の生徒が説明会に参加し、取り組んでくれています。
それだけ、現在の持久走のありかたに不満があるのでしょう。
不満を解決する代案。これも人の感情を上げる方法だと思います。
ヒント⑤ デバイスで確認する
これは自分の陸上競技の授業では必須になってきました。
勤務校では学習用iPadが5台用意されています。そのiPadに「coachs eye」という有料のカメラアプリを入れてもらい、それで自分の動きを確認、フィードバック後にさらに競技に取り組むグループワークが定番化しています。
とにかくアプリの機能がいいので細かく自分の動きをチェックすることが可能です。
下手でも、それはそれで面白い。自分で自分の動きは気になるもの。興味をひくという点でかなり役立っています。
また、同じアドバイスをしても、自分の動きを見ているのと見ていないのでは吸収の仕方が違います。
自分の動きを知りたい。もっと良くしたい。そういう感情を刺激してくれる最高のアプリです。
もうデバイスなしの陸上競技の授業は考えられません。
まとめ
結局、「やらされ」から脱却するために、体育の時間で生徒になにをさせてあげればいいのだろうか。
それをまとめてみる。
- 五感を引き出し「こども」にさせる
- ルールとマナーを守るうえでの自由であることを学び「大人」にさせる
- 自分のペースで行う、自分の動きをフィードバックさせることで「研究者」にさせる
- 駆け引きを繰り返すなかで「勝負師」にさせる
- 自分で決めて自分でやることで「自立」させる
この結果、体力がつくし、運動能力が高まるし、巧緻性が身につくし、協調性が身につくということではないか。
答えではないだろうが、今の現状を打開するためのヒントにはなるかもしれない。
これからも生徒のために汗をかきましょう!!